【20/11/15 追加検証 UP】
手持ちのRyzen 9 3950Xがなかなかの当たりCPUっぽいので、今更ながら軽くオーバークロックしてみた。
オーバークロックをしようと思った経緯なのだが、最近ゲームをしていて3950Xのコアクロックがあまり上昇していないことに気づいた。このCPUのブーストクロックは最大4.7GHzなのだが、比較的重いゲームをしていても最大クロック4.5GHzであった。コアのひとつくらい4.7GHzになっても良いと思うが、何度確認しても4.5GHzである。
3950Xのシングルスレッド性能はRYZENの中では非常に高性能であるが、実際にクロックが上がらなければ意味が無い。まだまだ負荷が軽くて上がらないのか、元々上がりにくいのか、それとも管理人の環境が悪いのか不明である。コアクロックが4.7GHzに張り付かない原因を探るのも面倒なので、手動でオーバークロックしてみることにした。
全コア同一クロックでオーバークロックする場合、3950Xや3900Xのコアクロックは4.3~4.4GHzが壁になっているようで、ハズレ個体だと電圧盛々でもOSすら起動しない模様。3950Xや3900Xは選別チップだろうしハズレはなかなか無いとは思うのだが、ネットで調べるとたまにあるようだ。幸いなことに、管理人の元にある3950Xは軽く検証してみたら良い個体である事が判明した。
はじめに言っておくが、ブーストクロックである4.7GHzに拘っている訳ではない。3950Xの性能に不満はないし、そもそもシングルスレッド性能をそこまで求めていない。個人的には、全コア同一クロックであれば4.0~4.2GHz辺りで動作していれば十分だと感じる。
ちなみに、RYZENはマザーボード任せの自動設定にしておくと安定性を重視して電圧がかなり高くなる。電圧が高いということは、消費電力も高いということである。消費電力と発熱量は比例するので、当然CPU温度も高いということになる。電圧を適切に調整すれば、性能を殆ど下げずに消費電力を大きく抑えることも可能である。RYZENの発熱に閉口している人は色々と試してみるのも良いだろう。
オーバークロックしてみる
※オーバークロックはメーカーや代理店の動作保証対象外になるので自己責任で行うこと。
今回は3950Xで検証することにしたが、どのようにオーバークロックするのか決める必要がある。最初に決めるのはコアの倍率であるが、全てのコアの倍率を同じにする方法がオーソドックスでありオーバークロックの基本である。ツール等を利用すれば各コアの倍率を個別に設定することも可能であるが、コア数が多いCPUだと突き詰めるのが難しく時間もかかる。今回は全てのコアの倍率を同じにし、クロック周波数を固定にする方法で行う。
次に、コア電圧のモードであるが、これも何通りかある。メーカーによって各モードの呼び名は異なるのだが、今回はmsiマザーボードのUEFIを参考に説明してみる。
- Override Mode:コア電圧を常に一定にするモードで、UEFIで初期設定されているモードである。所謂、固定モードである。
- Adaptive Mode:コアクロックの状態により電圧が変動するモード。低負荷(クロックが低い)では電圧が下がり、高負荷(クロックが高い)では電圧が上がる。定格動作の自動だとこれと同じ状態になる。
- Offset Mode:既定値の状態からプラスもしくはマイナスのオフセット電圧を加えるモード。主に電圧を下げる目的で使用されることの多いモードであるが、電圧を下げると低負荷時やアイドル時に不安定になる。
- Override+Offset Mode:Override ModeとOffset Modeを合わせたものである。
- Adaptive+Offset Mode:Adaptive ModeとOffset Modeを合わせたものである。
基本的にオーバークロックは「Override Mode」が推奨されている。今回は、Override Modeに設定する。
第2世代以降のRYZENは「Precision Boost Overdrive(PBO)」という機能があり、冷却に余裕がある場合はオーバークロックが自動で働くようになっている。コアクロックを固定にする場合はUEFIでこの機能を無効にしておく。管理人の環境だと自動でも有効でも特に問題なく動作するのだが、念の為。
「Load-Line Calibration(LLC)」は安定性を重視するなら高めの設定で構わないが、管理人はマザーボード任せの自動にしている。補正が強いと発熱が多くなるので、冷却に余裕がない場合は低めの設定にしておくと良い。というより、冷却に余裕がないなら素直にコア電圧下げるかコアクロックを下げよう。
今回はコア電圧を固定にするので、省電力機能である「Global C-state Control」、ブースト機能である「Core Performance Boost」はそれぞれ無効にしておく。最近のマザーボードは頭がいいので両方自動のままでも特に問題なく動作するが、不安定になるようであれば無効にしておく方が良い。
下記の記事で画像付きで解説しているので、設定方法を見たい人はこちらを参考にして頂ければ幸いだ。
また、オーバークロックが良く分からないという初心者向けに下記の記事で詳しく解説しているので、興味のある人は是非読んで頂きたい。
オーバークロックの方法を決めたら、コアクロックとコア電圧を決める。コアクロックは3950Xの壁と言われている4.3GHzで固定し、コア電圧は1.30Vから徐々に下げていく方法で検証してみる。ベンチマークソフトの「Cinebench R20」を10回程度連続で実行してみて、エラーが出なければOKとする。
以下は、今回の検証で使用するパソコンの構成。室温は25℃で、まな板ケースではなく通常のケースに入れた状態で行う。クーラーは空冷最強の「NH-U12A」を使用する。グリスは「シミオシ OC Master SMZ-01R」ネコグリスを塗布してある。
パソコン構成 | |
CPU | AMD Ryzen 9 3950X |
CPUクーラー | Noctua NH-U12A |
メモリ | G.Skill TridentZ Neo F4-3600C16D-32GTZNC(速度3600MHz) |
マザーボード | MSI MEG X570 ACE |
電源ユニット | Seasonic PRIME Titanium 1000W |
検証した結果のスクショを載せてみる。サイズが大きいので注意。
以下の表は、結果をまとめたもの。値は、何度か実行し平均に近いものを採用した。
最大CPU温度(℃) | 最大消費電力(W) | Cinebench R20 | ワットパフォーマンス | |
1.3000V | 93.9 | 215.8 | 10054 | 46.58 |
1.2875V | 91.3 | 210.6 | 10030 | 47.62 |
1.2750V | 89.8 | 204.2 | 10002 | 48.98 |
1.2625V | 87.9 | 198.7 | 9944 | 50.04 |
1.2500V | 86.5 | 193.9 | Error | |
1.2375V | OS起動不能 |
UEFIでのコア電圧は0.0125V刻みでの調整になる。管理人の環境だと、OSが起動するコア電圧の下限は1.2500Vで、1.2375Vでは起動しないことがあった。1.2500VではOS自体は起動するものの、Cinebench R20を動作させると途中で止まってエラーが出てしまうことがあった。Cinebench R20はそこまで負荷の高いソフトではないため、10~20回走らせて一度エラーが出るようだと安定しているとは言い難い。
CPU温度に関しては、Cinebench R20を連続で実行しているのでそれなりに高くなっている。ワットパフォーマンスは、Cinebench R20のスコアを最大消費電力で割ったもの。電圧が低くなるにつれてワッパが上がっている。環境によってデータにバラツキがあるだろうし、これらの値は参考程度にお願いしたい。
ちなみに、コア電圧1.2625Vで「Cinebench R15」も検証してみたが、動作に問題はなかった。
これらの結果を見ると、全コアのコアクロックを4.3GHzにした場合、安定動作するコア電圧の下限値は1.2625Vとなる。全コア4.2GHzでも、個体によっては1.30V以上を要求されるものがあるようなので、この個体はなかなか良い方だと思われる。LLCを一番安定する設定にすれば4.3GHz@1.25Vの設定でも問題なく使用できると思う。空冷でここまで回れば、水冷にすればもっと良い結果が出るだろう。
とりあえず、コアクロックを全コア4.3GHz、コア電圧は安定性を重視して1.2750Vで常用することにした。エンコードで長時間負荷をかけてテストしてみたが、CPU温度は85℃前後で落ち着いていた。3950Xは定格でもかなり温度が高いので、90℃を下回っていれば比較的安全であると言える。心配性な人は80℃を目安にすると良いかも知れない。ちなみに、定格動作(Precision Boost Overdrive有効)でCinebench R20を実行すると、クーラーがNH-U12AでもCPU温度は82℃辺りまで上昇する。
ついでなので、全コア4.2GHzのコア電圧の下限も探ってみた。
4.3GHzでの下限が1.26V辺りなので、4.2GHzなら1.20Vでも大丈夫だろうと適当に設定してみたが、これが当たりだった。コア電圧を1.1875Vに下げたところ、3回目のベンチテストでエラー。ダメ元で更に1.1750Vに下げたら、OS起動後にフリーズしてしまった。全コア4.2GHzでのシステムが安定するコア電圧の下限は、1.20Vという結果になった。う~ん、当たりCPUなのか良く分からん。
最大CPU温度(℃) | 最大消費電力(W) | Cinebench R20 | ワットパフォーマンス | |
1.2000V | 80.8 | 173.6 | 9719 | 55.98 |
1.1875V | 79.0 | 166.4 | Error | |
1.1750V | OS起動後フリーズ | |||
1.1625V | OS起動不能 |
追加検証(20/11/15)
3950Xのオーバークロックであるが、空冷ではなかなか厳しいので水冷システムを組み込んだ。パソコン構成はCPUクーラーとGPUの変更のみで、他はそのまま。グリスは相変わらず「シミオシ OC Master SMZ-01R」ネコグリスを塗布してある。室温は23℃。
ラジエーターが「Black Ice Nemesis LS」で、その他のパーツは全てEKWBとなっている。GPUは空冷のままにした。360サイズと120サイズのラジエーター、120mm最強ファン「NF-A12x25 PWM」を搭載した。本格水冷用のラジエーターは同じサイズや厚みでも簡易水冷のものより放熱性が高いものが多い。Black Ice Nemesisも例外ではなく、ファンがしっかりしていれば高いパフォーマンスを発揮する。この構成だと冷却性能はオーバースペックかも知れない。
とりあえずコア倍率を44、コア電圧を1.3750V、LLCは自動に設定してCinebench R20を実行してみた。
全コア4.3GHzで常用していたコア電圧が1.2750Vだったので、適当に0.10V上げてみたがこれが正解だったようだ。コア電圧を1.3625Vにしたら、パソコンが温まっている状態では10回に1度程ベンチマークでエラーが出ることがあった。朝イチ冷えた状態では、1.3250Vでもベンチマークが通ることを確認したが、それは正確な検証ではないだろう。
最大CPU温度(℃) | 最大消費電力(W) | Cinebench R20 | ワットパフォーマンス | |
1.3750V | 91.8 | 249.1 | 10192 | 40.91 |
水冷でもコア電圧1.3750VではCPU温度が90℃を超えるので、これ以上は極冷じゃないと厳しいと思う。真冬の寒空で検証すればもっと行けると思うが、そんなことをするのはユーチ○ーバーくらいだろう。
LLCをレベル1(一番安定する設定)にすれば1.3500Vでも安定するので、これが全コア4.4GHzにしたときのコア電圧の下限値になる。しかし、CPU温度と消費電力は、LLC自動の1.3750Vのときより上昇してしまう。これは常用向きの設定ではないだろう。
結論を述べると、全コアのコアクロックを4.4GHzにした場合、LLCが自動であれば安定動作するコア電圧の下限値は1.3750Vとなる。
次に、全コア4.3GHzで再度検証をしてみる。今回は冷却に余裕があるので、空冷ではエラーが出ていたコア電圧1.2500Vから行う。
最大CPU温度(℃) | 最大消費電力(W) | Cinebench R20 | ワットパフォーマンス | |
1.2500V(空冷) | 86.5 | 193.9 | Error | |
1.2500V | 76.5 | 191.2 | 10024 | 52.42 |
1.2375V | 76.5 | 188.2 | 10001 | 53.14 |
1.2250V | 75.0 | 187.0 | Error |
流石に水冷は良く冷えるようで、空冷のときと比較するとCPU温度は10℃下がっている。1.2375Vまではベンチマークを何度実行しても安定していたので、常用するなら余裕を見て1.2500Vが良いだろう。1.2250Vだとベンチマークが強制終了したり、OSが起動時にフリーズすることがあった。LLCをレベル1にしても、消費電力とCPU温度だけ上がって状況はあまり変わらなかった。ベンチマークは若干通るようにはなったのだが・・・。
結論を述べると、全コアのコアクロックを4.3GHzにした場合、安定動作するコア電圧の下限値は1.2375Vとなる。
尚、前回の検証より室温が2℃下がっているが、個人レベルで環境を一定にするのは困難なので大目に見て頂きたい。
まとめ
~RYZENオーバークロックUEFI設定方法まとめ~
- コアの倍率「CPU Ratio」を設定する。
- 電圧モード「Override Mode」を選択し、コア電圧を設定する。
- 「Precision Boost Overdrive」を無効にする。
- 「Global C-state Control」を無効にする。
- 「Core Performance Boost」を無効にする。マザーボードのモデルによっては、コア倍率が固定モードだと自動で無効になる。
これがRYZEN環境でのオーバークロックの基本的な設定方法になる。
管理人の個体が当たりかどうなのかは微妙なところだが、悪い部類ではなさそうである。全コア4.4GHzでもコア電圧1.40V以下で回ったので、個人的には嬉しい。このCPUは長く愛用していきたいと思う。
11月5日に次世代のRYZENが発売されるので、入手できればこちらも検証しようと思う。