シングルスレッド性能を前世代よりも飛躍的に向上させた第4世代Ryzenを軽くレビューしてみる。
Ryzen 5000シリーズ 主な仕様
Ryzen 5000シリーズ 主な仕様 | ||||
モデル | Ryzen 9 5950X | Ryzen 9 5900X | Ryzen 7 5800X | Ryzen 5 5600X |
アーキテクチャ | Zen 3 | |||
製造プロセス | 7nm CCD + 12nm IOD | |||
Core Chiplet Die | 2 | 1 | ||
コア数 | 16 | 12 | 8 | 6 |
スレッド数 | 32 | 24 | 16 | 12 |
L2キャッシュ | 8 MB | 6 MB | 4 MB | 3 MB |
L3キャッシュ | 64 MB | 64 MB | 32 MB | 32 MB |
ベースクロック | 3.4 GHz | 3.7 GHz | 3.8 GHz | 3.7 GHz |
最大ブーストクロック | 4.9 GHz | 4.8 GHz | 4.7 GHz | 4.6 GHz |
TDP | 105 W | 65 W | ||
対応ソケット | Socket AM4 | |||
価格 | 799ドル | 549ドル | 449ドル | 299ドル |
これらのRyzen 5000シリーズで純正CPUクーラーが付属するのは、Ryzen 5 5600Xのみである。この付属するクーラーは「Wraith Stealth」でLEDは搭載していない。他のモデルでは、別途CPUクーラーを用意する必要がある。12コアのRyzen 9 5900Xや、16コアのRyzen 9 5950Xは、フルで性能を発揮させるとかなり熱くなるようなので、高性能なクーラーを用意することをおすすめする。
レビュー
パッケージとCPU本体
同梱物はガイド、ロゴステッカー、CPU本体のみ。
パッケージを比較してみる。前世代の3950Xや3900Xのパッケージは厚みのあるしっかりした箱で、上下に分割して開封するものであった。今回の5950Xのパッケージはただのボール紙パッケージで、非常に簡素化されている。中身の緩衝材も3950Xはウレタンスポンジだったが、5950Xはボール紙をX型に折り曲げたものだけでスカスカ。コスト削減に必死なのかも知れない。個人的にパッケージはどうでもいいのでコスト重視にするのは歓迎。
検証環境
以下の表は今回の検証で使用するパソコンの構成。5950Xは発熱が高いCPUなので、冷却は水冷で行う。室温は22℃。5950Xのアイドル温度は40~42℃辺りで安定している。Ryzen 3000シリーズでは、アイドル時に温度が上下する症状が見られたが、5950Xではそういった挙動は無い。
パソコン構成 | ||
CPU | AMD Ryzen 9 5950X | AMD Ryzen 9 3950X |
メモリ | G.Skill TridentZ Neo F4-3600C16D-32GTZNC(速度3600MHz) | |
マザーボード | MSI MEG X570 ACE | |
ビデオカード | MSI GeForce RTX 3080 GAMING X TRIO 10G | |
電源ユニット | Seasonic PRIME Titanium 850W | |
PCケース | Fractal Design Define 7 |
Cinebench R20で検証
超定番ベンチマーク「Cinebench R20」で検証してみる。冷却に余裕がある場合はオーバークロックが自動で働くPBO(Precision Boost Overdrive)という機能は無効にしてある。つまりデフォルト設定である。まずはシングルコアの性能から検証。
なんと600を軽く超える633ptsを記録。ちなみにCore i9-10900Kのシングルコアのスコアが520~530ptsなので、シングルスレッド性能で最強を謳っていた10900Kを大幅に上回る結果となった。注目して欲しいのはコアクロックのMaximum(最大値)で、5.0GHzを超えるコアが2個あり、他のコアもほぼ4.8GHz以上出ている。ほぼ全てのコアが最大ブーストクロックに近い周波数まで上がるのは凄いとしか言いようがない。手持ちの3950Xはここまで綺麗に張り付かないし、以前のRyzenでは考えられない挙動である。
続いてマルチコアのベンチマークで、スコアは9927ptsとなった。ベンチマーク中のコアクロックは全コア3.8GHzで動作していた。10000pts前後のスコアは、3950Xであれば全コア4.3GHzに相当するスコアである。シングルスレッド性能が向上しているので、当然マルチスレッド性能も向上している。
次にPBO有効で検証してみる。シングルコアのスコアはPBO有効でも変わらなかったので省略する。
スコアは10000超えの11249ptsを記録。気になるCPU温度は水冷でも82℃辺りなので、空冷であれば冷却性能の高いクーラーが必要かと思われる。16コアCPUの性能をフルで発揮させるのであればハイエンド空冷でも厳しいので、280サイズ以上のAIO水冷クーラーを用意することをおすすめする。
こちらはPBO有効でベンチマーク中に撮影したスクリーンショット。コアクロックとVIDに注目して欲しいのだが、全コア4.4GHz(正確には4375MHz)で動作し、VIDが1.23Vと低い。つまり、前世代と同じコア電圧でも、Ryzen 5000シリーズはより高いクロックで動作する。
※VIDとは、簡単に説明するとCPUがマザーボードに要求する電圧の値である。この値は製造段階で反映されるものであり各個体によって異なる。
Cinebench R20の結果をグラフにしてみた。マルチ=デフォルト設定、マルチPBO=PBO有効の設定。
3950Xと比較すると、5950XはPBOを有効にしたときのスコアが高い。PBO無効でも3950XのPBO有効を上回るスコアが出ている。5950XはPBO無効であれば発熱が少ないので、空冷でも十分に常用可能である。
21/1/2 追加検証
「Precision Boost Overdrive 2」を利用可能なBIOSに更新したので、再度検証を行った。詳しくは下記の記事で検証しているので、興味のある人は読んで頂きたい。
FF14 漆黒のヴィランズで検証
次に、みんな大好き「FF14 漆黒のヴィランズ」ベンチマークで検証してみる。品質設定は全て最高品質となっている。
検証した結果をグラフにした。1080p=フルHD解像度、1440p=WQHD解像度。
こちらはスコアのグラフ。3950Xと比べると凄まじい伸びである。3950Xのスコアを基準にした場合、5950Xはどちらの解像度でもほぼ130%の性能となっている。3950Xの性能は決して悪い部類ではないのだが。
こちらはフレームレートのグラフ。前世代のRyzenは高解像度には強いものの、フルHD解像度や低負荷のゲームにおいてはインテルに差を付けられていた。しかし、シングルスレッド性能が向上したRyzen 5000シリーズはこの問題を見事に克服している。特に、平均フレームレートが大幅に伸びており、最近のトレンドであるフルHD解像度+高リフレッシュレートモニターの組み合わせでは最適なCPUだと言える。
メモリ速度に関してだが、Ryzen 3000シリーズではInfinity Fabric(FCLK Frequency)が1900MHzを超えると不安定になったり上手く性能が出ないことが多かった。Infinity FabricとDRAM Frequencyの比率を1:1にするのであれば、メモリ速度は3600MHzが一番美味しいというのがRyzen 3000シリーズでの常識である。AMD曰く、Ryzen 5000シリーズでは1:1のままメモリ速度4000MHzで動作する可能性があると言っている。これは試さないわけにはいかないだろう。
管理人の環境では1:1にした状態でメモリ速度3800MHzに設定しても安定していることは分かっているので、この状態でベンチマークを走らせてみた。設定はフルHD解像度、最高品質。
SCORE: 28794
平均フレームレート: 214.6923
最低フレームレート: 79
スコアは28794で、メモリ速度3600MHzのときよりも確実にパフォーマンスが上がっていることが分かる。フレームレートも上がっており、オーバークロックの喜びが感じられる瞬間である。
続いてメモリ速度4000MHzを試そうとしたのだが、管理人の環境だとInfinity Fabric Dividerが有効になってしまい、無理やり手動で設定しても1:1で動作させることができなかった。メモリ自体は4000MHzでも安定動作しているので、CPUの個体差か、あるいはBIOSの最適化がまだ微妙なのかも知れない。
オーバークロックしてみる
※オーバークロックはメーカーや代理店の動作保証対象外になるので自己責任で行うこと。
全コア4.4GHzでのVIDは1.23Vなので、コア電圧は1.30Vであれば全コア4.6GHz辺りで回りそうである。とりあえずこの設定でオーバークロックを試してみる。
何事もなくベンチマークを完走。スコアは11893ptsを記録。
こちらはCPU温度等の様子。最大消費電力は260W、ベンチマーク中は250W辺りで動作していた。CPU温度が90℃を超えているので、この状態での常用はやや危険である。温度を下げるためにコア電圧の下限を探ったところ、1.26Vでベンチマークが完走することが分かった。常用するのであれば1.28V辺りが良いかも知れない。第4世代Ryzenは前世代よりも高クロックで回ることが分かる。
ちなみに、全コア4.7GHzを試そうと思ったが、コア電圧1.35Vに設定してもベンチマークは通らなかった。コア電圧1.30Vで既に90℃を超えているので、この先は極冷じゃないと厳しい。部屋の温度をかなり下げれば1.375V辺りでもいけると思うので、オーバークロックに関してはまた気が向いたら検証しようと思う。とりあえず、5950Xの壁は全コア4.7GHzだということが分かった。
もしかしたらハズレCPUかも知れない(´・ω・`)
総合評価
○ 良いと思った点
- Core i9-10900Kを軽く上回るシングルスレッド性能
- 同じコア電圧でも前世代より高クロックで動作する
✕ 悪いと思った点
- オーバークロックの余地は相変わらず皆無
- Ryzen 9 5950Xにおいては10万円を超えてしまった
シングルスレッド性能を前世代よりも飛躍的に向上させた第4世代Ryzenは、全くスキのない優秀なCPUだと言える。インテルの強みだったシングルスレッド性能も今回のRyzenは勝っており、弱点はオーバークロックの伸びしろが皆無な事くらいか。普通はオーバークロックなんてしないで定格で使用するだろうから、これは弱点と言う程でもない。逆に言えば、デフォルト状態で最高のパフォーマンスが発揮されるようになっていると言える。Ryzen 5000シリーズは、正に無敵のCPUと言って良いだろう。レビューなので欠点を挙げているが、この性能であれば十分満足できる価格設定である。管理人は、5950Xにおいては文句なしの星5つの評価を与えたい。